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気孔は、どうやって開いたり閉じたりするの?
葉の表面をよく見ると、小さな口のような穴がたくさん並んでいます。この穴を「気孔(きこう)」といいます。植物はここから二酸化炭素を取り込み、水蒸気を外へ逃がします。開けば空気とつながり、閉じれば水を守れます。
葉にある小さな穴、気孔は、どうやって開いたり閉じたりするの? 細胞のふくらみで動く仕組みと、多肉植物が夜に開く理由をやさしく説明します。
気になるのは、この穴が「どうやって開いたり閉じたりするか」です。穴のふちには、二つの細胞が向かい合って並んでいます。この細胞が形を変えることで、穴が開いたり閉じたりします。この記事では、その動きの仕組みを、実際の研究論文に沿って読み解いていきます。
先にことわっておきます。ここで紹介する仕組みの多くは、シロイヌナズナやソラマメといった、実験でよく使われる植物で調べられたものです。アガベや多肉植物でそのまま同じことが起きているとは限りません。どこまでが確かで、どこからが推測なのかを、はっきり分けて進めていきます。
気孔は、細胞がふくらむと開く小さな穴
気孔のふちにある二つの細胞を、孔辺細胞(こうへんさいぼう)といいます。二つの細胞が向かい合い、その間にすきまができます。このすきまが気孔の穴です。
この二つの細胞がふくらむと、穴が開きます。しぼむと、穴が閉じます。細胞のふくらみ具合を、専門的には「膨圧(ぼうあつ)」といいます。細胞の中に水がたくさん入って、内側から壁を押す力のことです。風船に空気を入れると張るのと似ています。
なぜふくらむと「閉じる」ではなく「開く」のでしょうか。孔辺細胞の壁は、場所によって厚さが違います。穴に面した内側の壁が厚く、外側がうすくなっています。だから水が入ってふくらむと、うすい外側のほうがよく伸びて、細胞が弓のようにそり返ります。二つの細胞がそれぞれ外へそると、間のすきまが広がります——これが気孔が開くということです。
この「膨圧が変わると気孔が開閉する」という考え方は、気孔生理の一番の土台として、複数の原著論文や総説で一貫して支持されています(Hayashi et al., 2017, PubMed 28358053)。
ここまでは仕組みの入り口です。次に、「では、その水はなぜ細胞に入ってくるのか」を見ていきます。
細胞をふくらませる、小さな粒の動き
水は、ただ入ってくるわけではありません。水は「濃いほうへ移動する」という性質を持っています。塩を多く含んだ側へ、水がしみ込んでいくようなものです。この性質を浸透(しんとう)といいます。
だから孔辺細胞は、まず自分の中に溶ける物質をためこみます。中が濃くなると、そこへ向かって水が入り、細胞がふくらみます。気孔が開くとき、細胞の中でためこまれる代表的な物質が、カリウムイオン(K⁺)です。
ただしカリウムはプラスの電気を持っています。プラスばかりが増えると細胞の中の電気のバランスが崩れます。そこで、マイナスの電気を持つ物質もいっしょにためこまれます。マイナスの物質をまとめてアニオンと呼びます。気孔で働くアニオンとして、塩化物イオン(Cl⁻)と、リンゴ酸(malate、マレート)という物質が知られています。
どれくらいの量が動くのでしょうか。ソラマメ(Vicia faba)を使った研究では、気孔が開くときにカリウムの濃度がおよそ0.4当量/L(Eq/L)ほど増え、そのプラスの電気の半分ほどをリンゴ酸が打ち消す程度だと見積もられています(Wang et al., PubMed 24474312)。塩化物イオンも、条件によってはアニオンの役割の一部を担いうると報告されています(Raschke & Schnabl, PubMed 16660293)。
ここで注意したいことがあります。この0.4という数字は、ソラマメを、ある光や温度の条件で測ったときの値です。植物の種類、葉の年齢、測り方が変われば、量も割合も変わります。この数字を、そのままアガベや他の多肉に当てはめることはできません。
さらに、ためこんだイオンは細胞の中の「液胞(えきほう)」という大きな袋にも運ばれます。シロイヌナズナ(Arabidopsis)では、液胞へのカリウムの取り込みが気孔の開口に欠かせないこと、そして液胞膜にある塩化物イオンの通り道(AtALMT9)がリンゴ酸によって開き、開いた状態を保つのに関わることが示されています(De Angeli et al., PubMed 23653216)。
まとめると、開口とは「イオンをためて濃くする → 水が入る → ふくらむ → 穴が開く」という順番で進みます。中身を運ぶポンプが、穴の大きさを決めています。
開く合図と、閉じる合図
では、いつためこみを始めるのでしょうか。それを決める合図があります。
開く合図の一つが、青い光です。孔辺細胞には青い光を受け取るセンサー(フォトトロピン)があり、これが光を感じると、細胞膜にあるポンプ(原形質膜H⁺-ATPase、プロトンポンプ)が働きだします。このポンプが細胞の外へ水素イオンをくみ出すと、細胞の内外に電気の差が生まれ、それがカリウムを細胞へ引き込む力になります。
研究では、青い光を当てるとまずフォトトロピンがすばやく反応し、そのポンプがリン酸化という化学的なスイッチで活性化され、そのあとでカリウムがたまっていく、という時間の順序が示されています(総説 PubMed 28465463、Kinoshita & Shimazaki, PubMed 10523299)。合図が先、イオンの移動が後、という流れです。
逆に、閉じる合図もあります。植物が乾いてくると、アブシジン酸(ABA)というホルモンが増えます。ABAが増えると、孔辺細胞からアニオンが外へ流れ出し、カリウムも出ていきます。中が薄くなれば水も出て、細胞がしぼみ、気孔が閉じます。閉じる側で働くアニオンの通り道として、AtALMT12という因子が報告されています(Meyer et al., PubMed 20154005)。
ただし、閉じる仕組みは一本道ではありません。総説では、アニオンの通り道が開くことに加えて、細胞内のカルシウムイオン、リン酸化、膜のポンプの引っ込みなど、いくつもの調節が重なって閉口が進むとまとめられています(Kim et al., PMC3056615)。「ABAが一つのスイッチを押せば閉じる」という単純な話ではありません。
CAM植物では、動く時間がひっくり返る
ここまでは、昼に光を浴びて気孔を開ける植物(C3型と呼ばれる多くの植物)を前提にしてきました。ところが、アガベや多くの多肉植物は違う動き方をします。
これらの植物は、CAM(ベンケイソウ型有機酸代謝、crassulacean acid metabolism)という仕組みを持っています。乾いた場所で水を節約するため、暑くて乾く昼は気孔を閉じ、涼しい夜に気孔を開けて二酸化炭素を取り込みます。取り込んだ二酸化炭素をいったん酸の形でためておき、昼になってから光合成に使います。つまり、気孔が開く時間帯が昼と夜で逆になっています。
アガベを調べた研究では、この昼夜が逆転したパターンと、遺伝子の働きが一日の中で組み替わることが、CAMの成り立ちに関わると示されています(総説 PubMed 24559590、Yin et al., PubMed 30081833、Abraham et al., PubMed 27869799)。
ここで面白いのは、「部品」自体は共通しているらしいことです。CAM植物であるカランコエ(Kalanchoe pinnata と K. daigremontiana)でも、青い光による開口の経路と、あのプロトンポンプのリン酸化がちゃんと働くことが確認されています(PubMed 30576518)。
つまり、こう整理できます。気孔を開閉する「道具箱」——ポンプ、カリウムの通り道、アニオンの通り道——は、C3植物ともCAM植物とも共通する部分があります。違うのは、その道具をいつ、どういう順番で使うかという「時間の割りふり」のほうです。同じ部品でも、動かすタイミングが逆になっている、と考えると分かりやすいでしょう。
ただし、これはあくまで「共通する部品が見つかっている」段階の話です。CAM植物で夜に気孔を開かせている主な合図が、C3植物の昼の合図と同じ仕組みなのかどうかは、まだはっきりしていません。アガベで孔辺細胞のイオンの動きを直接調べた研究は限られており、シロイヌナズナで作られたモデルをそのまま当てはめることはできません。同じCAMでも、種によって遺伝子や代謝の組み方に大きな違いがあることも報告されています(Yin et al., PubMed 30081833)。
分かっていること、分かっていないこと
最後に、この記事の内容を、確かさのレベルで分けて整理しておきます。
論文が直接示していること
- 気孔は孔辺細胞の膨圧、つまりふくらみ具合で開閉します。
- 開くときはカリウムとアニオン(塩化物イオン、リンゴ酸)がたまり、水が入ります。
- 青い光→フォトトロピン→プロトンポンプ→カリウム蓄積、という時間順序があります(主にC3のモデル植物での結果)。
- ABAは気孔を閉じる方向に働きますが、その経路は複数の調節が重なっています。
- アガベなどのCAM植物は昼夜が逆で、夜に気孔を開きます。
近縁種や一般論から推測できること
- 気孔を動かす部品の一部は、C3植物とCAM植物で共通している可能性が高いです。
- 同じ部品でも、使う時間帯や組み合わせが植物によって違うと考えられます。
まだ分かっていないこと
- CAM植物の夜間開口を主に動かしている合図が何か。
- アガベの孔辺細胞で、カリウムやアニオンが具体的にどう動くか。
- ソラマメで測られたイオン量の数字が、他の植物でどれだけ変わるか。
一つ、はっきりさせておきたいことがあります。この記事は、あくまで気孔が開閉する仕組みの説明です。「夜に開くなら夜に水をやればいい」といった育て方の話へ、そのまま飛び移ることはできません。気孔の動きと、鉢の中で起きること、置き場所や灌水の判断は、別の話として切り分けて考えたほうがいいでしょう。
気孔は、水と空気の出入り口を、細胞のふくらみだけで調節しています。その小さな穴の開き方を知ると、葉の表面で毎日くり返されている静かな調節が、少し違って見えてくるかもしれません。
Sources — 参考文献・原典
- PubMedで読む(PMID: 28465463)
- PubMedで読む(PMID: 10523299)
- PubMedで読む(PMID: 28358053)
- PubMedで読む(PMID: 24474312)
- PubMedで読む(PMID: 16660293)
- PubMedで読む(PMID: 23653216)
- PubMedで読む(PMID: 20154005)
- pmc.ncbi.nlm.nih.govで読む
- PubMedで読む(PMID: 30576518)
- PubMedで読む(PMID: 24559590)
- PubMedで読む(PMID: 30081833)
- PubMedで読む(PMID: 27869799)
※リンク先で、研究の対象や条件を確かめられます。研究結果をすべての植物や状況に当てはめられるとは限りません。
